不動産担保ローンと過払金について
不動産担保ローンとは
消費者金融会社がお金を貸す際には、担保不要である場合がほとんどです。無担保ということは、保証人もいりませんし家を抵当に入れる必要もありません。この手軽さ、誰にも秘密で容易に借りることができるというのが理由で、消費者金融は契約者数と売上を伸ばしてきたのです。
ただ、アイフル、アコム、CFJ(アイク、ディック)といった一部の消費者金融は、 家、土地、マンションといった不動産を担保にとってローンを組んでいる場合があります。この取引を、一般的に「不動産担保ローン」といいます。通常の消費者金融の借入と違い、不動産を担保に入れた場合には、もし借金が返せないと不動産を取られてしまします。担保に入れられる不動産は、契約者の自宅の場合がほとんどです。自宅を取られたくない、という気持ちから、返済への強制力が働くことになります。
不動産担保ローンの場合、いわゆる利息制限法の制限利率以下で貸付をしている場合もあります。しかし、アイフル、CFJはほとんどの場合、利息制限法の制限利率を超えて貸付をしています。場合によっては、貸付額が200万円近いのに20%を超える利率で貸している事例、貸付額が1000万円程度ある事例も多数あります。
住宅ローンを組んだ場合には年利1%以下で借りられる現在からすると、とてつもない高利であることがわかります。不動産担保ローンであったとしても、期限の利益喪失約款がある以上は、過払い金が発生しています。
不動産担保ローンは借入額が非常に高額になることが多く、過払金も多く発生しています。例えば、おおざっぱな計算になりますが、500万円を借り入れていた場合、制限利率は年15%になります。契約書上の利率が18%だった場合、差の3%が過払になりますので、年間15万円の過払金が発生します。
過払金は元金に充当されますので、この差は毎年開くことになります。
そのため、不動産担保ローンにおいては一般的に高額な過払い金が期待できる、といえるでしょう。もっとも、必ずしも過払い金があるわけではなく、制限利率以下で貸付をしている場合もあり、この場合にはいくら利息を支払っていても過払い金は発生しません。
不動産担保ローンとの切り替えの事案について
通常、貸金業者に対して、いきなり自宅を担保に入れてまでお金を借りる方は少数派です。多くの人は、まず消費者金融から借り入れをして、取引をしている中で消費者金融から「自宅不動産があるならそれを担保に更に借りませんか」ということを言われて契約を切り替えて借入をするのが一般的です。ここで問題になるのが、不動産担保ローンと通常のローン契約が一連した取引として過払金の計算ができるのか、それとも不動産担保ローンと通常のローンの過払い金は分けて計算されることになるのか、という点です。
一連計算なら過払い金が増え、時効になる可能性も低いのですが、分けて計算するとなると、別々に時効が進行するため、過払い金が大幅に減ることもあるし、場合によってはゼロになります。
最高裁の判決
最高裁判所は、平成24年9月11日判決で、CFJが担保のない通常の借入から不動産担保ローンに変更した場合について、特段の事情がない限り、通常借入分の過払い金は不動産担保ローンの借入金には充当しない、という判決を出しました。
そのため、現在切り替え前と切り替え後のローンについて充当計算をすることは難しくなっています。特に強く否定されているのが、おまとめローンでの借入です。平成24年9月11日判決における上告人(過払い金をせいきゅうしていた人)とCFJの契約は再度の借入の予定がない契約だった上、不動産担保ローンの借入で他社のローンを返済したおまとめローン事案でした。
田原裁判官は明確に充当計算を否定しており、その理由として、他社への過払い金については時効で消滅しているのに対して、一本化して債務を引き受けたCFJだけが過払い金を払わされるのは不当だ、という趣旨のことが記載されています。
具体的には「他の金融業者への返済資金を融資した上告人のみが,原判決のように本件担保権付契約による融資以前のリボ契約に係る取引と上記融資に係る取引とを事実上1個の連続した貸付取引と評価して,他の金融業者が時効により免責されている過払金部分について責任を負うべきであるとすることは,衡平の点からも問題が残るといわざるを得ない。」とのことです。
もっとも、最高裁判所も決して切り替えを認めないわけではなく、田原裁判官の補足意見によれば、一定の場合には従前取引から充当計算を認める余地を残しています。田原裁判官は下記のように述べています。
「担保権付契約による融資は確定金額による1回の融資ではあるが,一定額以上の元本の返済がなされれば,約定の返済日や返済金額に変更を加えることなく一定の限度額までの追加貸付けが予定されているような場合には,担保権付契約それ自体が継続的取引契約の要素を含んでいるところから,継続的取引契約たるリボ契約に係る取引と上記担保権付契約に係る取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価できる余地がある。また,貸主の合併等の理由により,同一貸主との間に複数のリボ契約やその他の金銭消費貸借契約を締結している場合や,同一貸主に対して夫婦や親子等経済的に一体の関係にある者が複数のリボ契約やその他の金銭消費貸借契約を締結している場合に,専らそれらの取引を一本化する趣旨で本件と同様の担保権付契約が締結されるなど,同一貸主に対する従来の自らの債務又は経済的に一体の関係にある者の債務を返済するために同契約を締結したと評価されるときには,従前のリボ契約に係る取引と上記担保権付契約に係る取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価できる余地がある。」
これは要するに@再度の借入を予定している借入の場合A同一借主の取引をおまとめした場合等には、一連計算とできる余地があるというものです。
最高裁に対する雑感
はっきり言って、田原裁判官の充当関係に関する見解は、法律判断というよりは「CFJがかわいそうだから」と言っているようにも見えます。むしろCFJはおまとめローンとして他の会社の債務も引き受けたのだから、過払い金請求に対するリスクも引き受けるべきだし、過払い金を借入債務に充当する合意は当然に推認されるではないかと考えます。通常であれば、このようなおまとめローンを勧めてくるのは貸金業者であり、自らおまとめローンを契約させておきながら、過払い金の請求から逃れるのはあまりに不当です。
特に、お金を借りる方からすれば、前の取引に過払金があった場合には、当然次の借入にそれを充当する意思があるというべきだと思われます。また、貸金業者はほとんどの場合過払い金の発生を認識しているのですから、この過払い金に対して借入金を充当する意思は推認できると思われます。法の番人たる最高裁判所が法的技術を放置して、「衡平の点からも問題」などと述べて、つまりおまとめした貸金業者だけが請求されるのはかわいそうだよね、という感情論に近いことを述べるというのは、一般的には理解しがたい点であり、大変問題があると考えています。
分断かどうかのポイント
上記の最高裁判例からすると、従前取引がリボルビング方式、おまとめ後の取引が追加借入を予定していない証書貸付である場合には、過払い金返還債務は充当されないということになるでしょう。
一方、不動産担保ローンも従前の無担保ローンと同じくリボルビング方式である場合等、契約形態が同一であると考えられる場合には、一連計算が可能となる場合があるでしょう。
当事務所の方針
原則として訴訟をし、満額回収を目指します。ただ、切り替えを行っている事案では、個別の契約内容、依頼者の希望に応じて対応することになります。特に、従前の契約と大きく契約形態が異なる場合には、裁判をせずに和解を検討することになります。
ただ、契約形態が異なったとしても、最高裁が述べるような特別な事情がある場合には、満額回収を目指すことになるでしょう。
不動産担保ローンのみの過払い金を請求する場合には満額回収を目指すことになります。